2008年02月27日

映画「野良犬」(昭和24年黒澤明、三船敏郎)

 川本三郎『今ひとたびの日本映画』(岩波現代文庫)のなかに「三船敏郎と復員兵」なる一篇がある。「夏のうだるような暑さのなかでピストルを盗まれた若い刑事(三船敏郎)が犯人(木村功)を追い続ける追跡劇」昭和24年黒澤明監督の映画「野良犬」を素材に追う刑事と追われる犯人が共に復員兵であることを指摘し、更には三船敏郎自身が復員兵であることを明かす。



 復員兵は明るい戦後社会の異物になってゆくと川本は語る。「『大日本帝国』が『民主日本』になったからといって、すぐにその現実に追いつくことは、戦場を経験した者であればあるほど出来はしない。…客観的には戦後を生きていながら、主観的には戦中を生きる。そういう二重構造を生きる者」が復員兵だ。



 なんとか犯人の家を探し当て聞き込みに訪れると、犯人の姉がこう語る。
「あの子は復員してからすっかり人間が変わっちまって…可哀そうに、復員の時、汽車の中で全財産のリュックを盗まれて…それからグレだしたんですよ」



 三船の刑事は犯人に同情する。彼も亦「復員の時、汽車の中でリュックを盗まれた」からだった。

 映画そのものについてはユーチューブの「http://www.youtube.com/results?search_query=映画 野良犬&search」(クリックせず、URLに「」内全部をコピペ)から見て欲しい。収録クリップがほぼ全編に近いと思った。

 ところで復員兵は映画に止まらなかった。三船自身が実生活で復員兵だったのだ。「大正九年に、中国山東省青島に貿易商・写真館の子として生まれた三船敏郎(本名である)は、第二次大戦が勃発した昭和十四年に関東軍の航空隊に応召、十代後半から二十代の青春期を兵士として過ごした。…戦争末期には、熊本県下隈ノ庄にあった特攻隊基地に配属され、そこで終戦を迎えている」。戦後復員した三船は闇屋や建設労働者をした後、偶然東宝のニューフェース募集に応募、幸運にも合格したのだった。審査員のひとり山本嘉次郎監督はのちに「こんな混乱期を乗り切るには、かれのようにふてぶてしく、たくましいつらだましいをもった男を主演者とする、エネルギッシュな映画をつくらねばならぬ」と回顧したし、黒澤明はこの「野良犬」で三船に「特攻隊上がりの、肩幅がひろくて、いなせで、しなやかな野獣のような男」を見た、と川本は書いている。

 戦後の復員人口は約500万人、「迷えるロストジェネレーション」だった。敗戦による戦後の大断絶はあまりに激しかった。「大義の末」(城山三郎)の精神的光景は荒涼たるものだったろう。その断絶を納得出来ない復員兵は多かったのだ。
posted by 三間堀 at 14:55| Comment(9) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
youtubeに「野良犬」をアップした者です。
御紹介いただきありがとうございます。編集に些か失敗しまして、欠落部分があります。おそらくは五分くらいだとはおもいますが。
Posted by あきら at 2008年02月28日 01:08
あきらさん

 コメント有り難うございます。

<youtubeに「野良犬」をアップ
 ご苦労様でした、お陰で得難い映像に接することが出来ました。映画や音楽の話は実際に見聞きしないと空転しますから大変に役に立ちました。

 ユーザーとしてはもっと色々アップして下さるのを期待したいです。宜しく。
Posted by とちのき at 2008年02月28日 05:42
せっかくご紹介いただきましたので、欠落部分を追加し、クリップを完全な形にします。二日くらいかかりますがよろしく。
Posted by あきら at 2008年02月28日 21:08
あきらさんへ

 ご苦労様です。
 ちょっとお願いークリップの何番を修正、或は追加したのかそっと教えて下さい。そこだけ見ますから。
Posted by とちのき at 2008年02月29日 18:14
 youtube「野良犬」アルシーブへのリンク不都合を修正しました。本ブログのURL自動変換では漢字の取扱がおかしくなることに気づかず、失礼しました。
Posted by とちのき at 2008年02月29日 18:18
とちのきさんへ

かなり欠落しておりました。クリップ番号004、005.
008〜0010.そして0015です。野球場の場面がにと意味がわからないわけで、大変失礼しました。
Posted by あきら  at 2008年02月29日 23:03
あきらさんへ

 早速拝見しました、お疲れさまでした。

 最後の逮捕された犯人ユサのわめき声、おめき声が大事だと思っていたので、確認できてよかったです。
Posted by とちのき at 2008年03月03日 13:10
おひさしぶりです。映画「野良犬」ですが、今だに著作権が生きてるようでして、クリップ4以外全て削除しました。見ていただけてよかったです。
ありがとうございました(^−^)
Posted by あきら at 2008年05月09日 18:52
あきらさんへ

 そうですか、著作権問題、実は心配しておりました。
<見ていただけてよかったです。
 いやいや、こちらこそ、見せていただけてよかったです。

本ページご訪問者へ
 こんな事情で見られなくなりましたが宜しくご寛恕下さい。
Posted by とちのき at 2008年05月11日 11:08
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レビュー:『野良犬』/ 映画
Excerpt: 監督:黒澤明 配給:新東宝=映画芸術協会 公開:1949年 製作:日本 評価:★★★☆☆ 遊佐が追いつめられて手錠をかけられ、慟哭するシーンには強い印象を受けた。 引き上げの汽車の中でリ..
Weblog: ぶらぶら日記 B面
Tracked: 2008-12-16 06:07