2018年08月12日

北原白秋 篁から長靴三題 青空文庫


 序に「我が長歌の総てを収めて、此の『篁』を成す。主として小田原の山荘にあり て、竹林の日夕を楽しみ、移りゆく季節の風と光とに思を寄せたる、そのを りをりの古体を蒐めたり」。とあるが、青空文庫版ではたの歌集に収められているものはたの歌集に委ね省略しているものがある。従って、この書だけで長靴全部を一覧できるようにはなっていないので注意。なお、発酵年月は昭和4年暮春とある。

🎨言祝

 大君。日の本の若き大君。神(かん)ながら朗らけき現 人 神(あらひとがみ)。
青空やかぎりなき。国 土(くにつち)やゆるぎなき。万づ世の皇孫 (みすまる)。
皇孫(すめみま)や天津日継。ああ、我が天 皇すめらみこと。大君。道の大君。
大稜威。今こそは依り立たせ、けふこそは照り立たせ。高御座(たかみくら)
輝き満つ、日の御座(みくら)ただ照り満つ。御剣や御光添ひ、御 璽(みしるし)
やいや栄えに、数 多(かずさは)の御鏡や勾玉や、さやさやし御 茵(みしとね)や、
照り足らはせ。大君。我が大君。現(あき)つ神。神ゆゑに、雲の上の生日(いくひ)の光采りてますかも。


🎨あるとき

 春鳥の枝(え に揺る声の、ゆく水のかがよふ音の、朝風の松のひびき、夕風の小竹(ささ)のさゆれの、
おのづから我よあは れと、あはれにも恍(ほ)れて、しらべて、あるべきものを。

 反歌
 一(ひと)いきに歌ひ成してぞおもしろきこのごろくやし思ひ凝りつる

🎨造り酒屋の歌
 水きよき多摩のみなかみ、南むく山のなぞへ、老杉の三鉾五鉾、常寂(とこ さ)びて立てらくがもと、
古りし世の家居さながら、大うから今も居りけり。西多摩や造 酒 屋(つくりざかや)は 門 櫓(かどやぐら)
いかしく高く、棟さはに倉建て並(な)め、殿づくり、 朝日夕日の押し照るや、八隅かがやく。八尺(やさか)なす
桶のここだく、新(にい)しぼりしたたる袋、庭広に干しも列(ツラ)ぬと、咽喉太(のどぶと)の老いしかけろも、
かうかうとうちふる鶏冠(とさか)、尾長鳥垂り尾のおごり、七妻(ななづま)の雌(め)をし引き連れ、七十羽(ななそは)の雛を引き具し、
春浅く閑(しづ)かなる陽(ひ)に、うち羽ぶき、しじに呼ばひぬ。ゆゆしくもゆかしきかをり、 内外(うちと)にも満ち溢るれば、ここ過ぐと人は仰ぎ見、道行くと人はかへりみ、むらぎもの心もしぬに、踏む足の たどきも知らず、草まくら、旅のありきのたまたまや、 我も見ほけて、見も飽かず眺め入りけり。過ぎがてにいたも酔ひけり。酒の香の世々に幸(さき)はふ、うまし国うまし
この家(や)ぞ、うべも富みたる。

 反歌

 大御代の多摩の酒屋の門 櫓(かどやぐら)酒の香さびて名も古りにけり

 西多摩の山の酒屋の鉾杉は三もと五もと青き鉾杉
***
 江戸は各地に清水が湧いて飲料水には困らなかったらしい。そして清水の湧くところ地酒が発達したらしい。私が在日時代の最後にすんだ賃貸マンションはそうした地酒屋の有効利用物件だった。近くに白子川が流れていたから水に不自由はなかったことだろう。ちなみに隣が煎餅屋で、製造過程で不整形になった煎餅を「くずれ煎餅」と称して安く小売していて便利だった。

 日本全国かは知らぬが造り酒屋はあちこちにあったろう。そして小さな物語もまた随伴していたのでないか。



ラベル:長靴 北原白秋
posted by 三間堀 at 12:00| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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