2011年08月15日

戦後の漢字制限で輿論が消え世論となった、そして

 最近でこそ漢字(正字)の復活が見られるが、戦後を永らく支配したのが当用漢字、新聞用字だ。

 漢字制限の流れは、必ずしも敗戦の外圧(アメリカ教育使節団の勧告)に起因するとも言えない。戦時中には南方占領地に日本語を普及させるべく情報局を中心に「日本語簡易化」が構想されていたからだ(佐藤卓巳)。その普及に圧倒的だったのは新聞社の使用だったが、活字を減らせば製作効率を向上できたからだ。漢字制限の滅茶苦茶さは高島俊男が痛憤するところだ。一方、毛沢東の指示で簡体字に切り換えた中国は古典が読めなくなった。つまり文化が断絶したのだ。

 最大の悪影響を与えたとも言えるのが、輿論(公論)が使えなくなり世論に切り替わったことだろう。世論とは「騒然」としていて「喧しき」ものであり、従って時には「煽動」されたり、また逆に「鎮静」されるべきものだった(『原敬日記』)。「不惑世論」と言い、意見(輿論)によって感情(世論)を指導すべきものとされていた。

 実際、一九四五年十一月七日付け朝日新聞社告「國民と共に立たん」は「天下の公器を自称する新聞が、今後激流に棹し、あくまで國民輿論の指導機関たるの役割を果たすためには、先づ自らの戦争責任を明かにしなければならぬこと論ずるまでもない」と宣明した。

 
 だが漢字制限の結果、輿論が世論に置き換わった途端、民主化スローガンでもあった「輿論指導」という理念も消えた。輿論(公論)は指導すべきものだが、世論(雰囲気)は誘導すべきものだからだ。

 そして今や新聞がこととするのは輿論ではなく、操作の匂い濃厚な世論が専らとなった。一見大したことのない漢字制限が一国の公論形成を萎縮させた例だ。
タグ:輿論
posted by まろにえ at 14:58| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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