信じていなさい
うたうことは決してむなしいことではないと
おまえが<お>と言う時
青草が
雄牛が
見えないものの影が
<お>
むっくり起きあがり おまえと一緒に歩き出すと
出典)新川和江詩集(ハルキ文庫)
詩、ポエジーなるものが何かとは掴み切れないものだが、やや比喩的だが「存在を立ち上げること」、或はものごとをあらしめる「意味化作用」(ロランバルト)だとすれば、引用部分はまさにそのことを詠っている。言葉が伝え得るのは観念、しかも受止め方に広狭偏差の大きいものだけで、目の前に生起する現象をそのまま伝えるには化石になり過ぎている。手垢がつき薄汚れ月並みすら真っ当に伝え得るかどうか危うげな言葉を使って、今目の前で展開する一回性の高い事象を伝えようとする詩歌は、その生成そのものに迫ろうとする。
だからこの詩は落ち込んだ詩人を勇気づける詩であると同時に詩とは何かの詩論でもありそうだ。

