★大切の事を忘れてゐるごとき思ひのありて身より離れず 窪田空穂「老身」昭和三十八年>同感だ。
☆レビュー団らしき一群と乗客らとおのづから離れて夜(よ)の汽車を待つ 鳥谷澄江 昭和万葉集(三)>劇団、サーカス、寄席などの大衆演芸はかつて日常的な存在で、多くのひとが足を運んだ。芸人は特別な存在でなく、おひねり(祝儀)を客は弾んだ。温泉場には舞台があって歌舞宴曲を楽しんだ。
★夜(よ)を来れば風あたたかし銀座街なまめく光のうづまきかへる 森 直太郎 昭和万葉集(三)>人それぞれだろうが、私は銀座でなまめいた経験がないので、燈になまめきを感じたことがない。ブックノリッジでは銀座にいろいろな思いがあるものの。。。
★好みては食べ物つくる老妻の旨(うま)きやと問ふに旨しとて食ぶ 窪田空穂「森の家」昭和三十八年>タイ国での社交辞令の一つは「アロイ・マイ(旨いか)」だ。旨いときは好いのだが、そうでないとき返答に困る。マイ・アロイ(旨くない、不味い)と答えるのが日本人には躊躇われるからだ。
★薄給(はくきん)なる教師の贈収賄(ざうしうわい)事件を師道頽廃(しだうたいはい)の故(ゆゑ)と大方(おほかた)は言ひ捨(す)つ 川上嶺花 昭和万葉集(三)>公務員バッシングが横行するが、生活苦に見まわれれば人が何をするか、知らぬではあるまいに。議員歳費を削れば貧乏人の参政は できにくい。
★詩歌とは真夏の鏡、火の額を押し当てて立つ暮るる世界に 佐佐木幸綱 >各人が思いを致すべきこと。
★兵として死ねる子が墓なくもがなイルクーツクにありて悲しき 窪田空穂「日本人捕虜の墓」昭和三十八年>ハバロスクとイルクーツクの両所。シベリアの極寒の地で、国際法無視の劣悪な環境下に強制労働させられた、と聞く兵士たち。ソ連、ロシアに対する思いは誰もが屈折する。
★めでたかる此(この)議事堂にふさはしき議員を得るはいつの代(よ)ならん 尾崎咢堂 昭和万葉集(三)「新議事堂建つ」>ざっと八十年前の出来事だが庶民の嘆きは変らずか。
★関ヶ原駅過ぎて茅萱(ちがや)の殊に青し盛りあがり盛りあがり車窓になだる 宮 柊二 *なだれる(なだる)=傾る(自動詞下二段活用)斜めに傾く。傾斜する。くずれて急に落花する。なだれ込む。
★火山岩の原のなぞへに白々と光を放つ長き仆(たふ)れ木 五味保義 *なぞえ(なぞへ)=傾斜(名詞)ななめ。はす。すじかい。斜面。
★堰(せき)の戸は未(ま)だ堰(せ)きあへね山水の瀬々のたぎちもいつか絶えなむ 北原白秋 昭和万葉集(三)「小河内村問題」>小河内ダムの話。
★ソドムともゴモラとも呼べ暮れ泥む君が都はわが都なり 石井辰彦 *なずむ(なづむ)=泥む(自動四段活用)はかばかしく進行しない。行きなやむ。滞る。なやみわずらふ。こだわってはかどらない。
★出生地金沢に歌碑の建ちたるを老いし尾山のよろこべりとぞ 窪田空穂「尾山篤二郎君を憶ふ」 昭和三十八年 >尾山篤二郎は金沢の人であったか。
★生命(いのち)とは我にかかはりなきものぞわが物にして我が物ならぬ 窪田空穂「老身病む」 昭和三十八年>健康なときは分らぬものだが、人間は危うい均衡の下、敢て言えば断続的に生き永らえている。幽明の境は「想定外」に訪れる。時間が直線的に流れ、自己は不変との迷妄が打ち砕かれる。
★父を焼くけむりなづさひ夕近し平田の山のもみぢ葉のうへ 木俣 修 *なずさう(なづさふ)=(自動詞四段活用)水などにつかる。漂う。浮かぶ。沈む。渡る。なじむ。
★ファクシミリから指示うけし灰いろの脳(なづき)はしばし遊行し行かむ 岡井 隆 *なずき(なづき)=脳(名詞)脳髄・脳・脳蓋(がい)などの古称。頭脳。
★生れつきの好悪(かうを)感なりいかにせん哀しみつつもあるに任せん 窪田空穂「好悪感」昭和三十七年> 好悪感は否定出来ない。問題はそれだけで行動するかどうかだろう。
★為せしより為さざりしこと思ひ浮かぶ一夜しづけし立夏を迎ふ 春日井 建 >誰にも訪れる瞬間。悔恨の有無は別として。。。
★若き日は病の器(うつは)とあきらめぬ老ゆればさみし脆き器か 窪田空穂「微恙」唱和三十七年>私事だが、五十代になるまで一度も入院せず、手術の経験もなかった。成人病が発見され服薬をしていたが、一言で言えば不養生だった。元気はメンテナンスを疎かにさせ、余程大病にでもならねば自覚せずだ。
★いちはやく製紙工場は燈(ひ)を入れて窓べ清(すが)しも明(あか)きはそのいろ 巽 聖歌 昭和万葉集(三)>未明、いちはやく製紙工場には作業準備の為か燈がともっている。清新な生きる意欲を感じさせるものだ。
★民族愛ふかき大人(うし)にぞみちびかれ遠き祖先のおもかげ並ぶ 窪田空穂「柳田国男翁逝く」昭和三十七年>評価は区々なれど、柳田国男なくして彼の描いた世界が知られたか、と言えばNOだろう。無視出来ない人だ。
★発電所のうしろの山は時雨(しぐ)れつつ濡(ぬ)れて光れる長き鉄管 許山茂隆 昭和万葉集(三)>大都市で消費経済だけに慣れ親しむと生活を成り立たすプロセスが全く見えなくなる。マスコミを通じて間接的な知識は持てても、やはり「百聞は一見にしかず」だ。言葉のリアリティーは経験裏付が要。
★梨棚にしろじろ梨の花咲きて花群のうへ風かよふ空 長沢一作 *なしのはな=梨の花(名詞)ばら科の落葉果樹。採果用は潅木状に棚作りする。四月末ごろ葉とともに白花が数箇集まり開く。梨花(りか)とも。
★曹達(ソーダ)工場の設立に一村(いっそん)反対せしが青年はぞくぞく雇はれてゆきぬ 大垣紋治 昭和万葉集(三)>例えば、環境か生存かの対立舳。悪しき環境下でも生きられるがマシという選択はありえよう。胃袋の問題は何にも増して深刻だ。
★賢しと愚かしといふはその人の生(せい)をたのしむ様式の差か 窪田空穂「所思」昭和三十七年 >賢愚の基準は多様だ。功利主義的判断だけで生きるものではない。
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