2012年01月29日

短歌寸評

★定年となりて三年過ぎにしを貨車脱線の夢に目ざむる 佐藤英一 >社会参加の一つとしての職業生活が終ると世間と没交渉の日々が始まる。それは全き受け身の生活だ。暢気とはいえ、世間の動きに流されるままでもある。気づけば想定外の世界にいるかも知れない。対応せねばならぬことのし忘れ、悪夢だ。

★レーニンもカールマルクスもともどもに将棋好みしといふは面白し 
★是非のことは腹足るものの論ずる事饑(ひもじ)きはただ啖(くら)はんを願ふ 大熊長次郎「真木」昭和七年 >労働運動に挺身した歌人は自殺する前年に「藝術は泰平の所産」と断じるに至った。

★亭々と聳ゆる楢の樹の膚を這いのぼりゆく蔦の命よ 田村重臣 *ていてい=亭亭(形容動詞タリ活用)高だかとまっすぐにそびえたつさま。>これも使われない言葉になったか。

述懐 窪田空穂 昭和二十一年 八月一日、中国より復員の最終船浦賀に入れるに、必ずやその中にああんと思へる次男茂二郎、終に還らず。わが心甚だ悲し★七十の心ぢからの俄にもくづほれはてて泥と横たふ★死にける時処(ときところ)すら知り得ざるわが子とおもふにあはれに切なし>復員せぬ我が子。

★厨ごと終へし家妻いつの日の来なばとなげく物の乏しさ 窪田空穂「廚」昭和二十一年 >言わずと知れた敗戦後の食料不足の世相。米国の廃棄物処理に近い脱脂粉乳を有難がった。

妻との臨終の歌 吉野秀雄>
★今生のつひのわかれを告げあひぬうつろに迫る時のしづもり 
★遮蔽燈の暗き燈(ほ)かげにたまきはる命尽きむとする妻と在り 
★をさな児の兄は弟をはげまして臨終(いまは)の母の脛さすりつつ >贅言無用。

★をさな子のほころびを汝(な)は縫へり幾日か後に死ぬとふものを 吉野秀雄『寒蝉集』>母親とはこういうものだろう。かくするが故に母は偉大なのだ。

★目の昏(くら)き母は立ちゆくわが側に這ひ来りかたく手を握りたり 同『一つ石』>我が子頼りの暮らし、立ちゆきが永遠の別れになるかもしれぬ不安と確認せざるを得ない気持ち。そんな母親の気持ちがよく分る情景。

★限りなくゆかむ吾等にあらなくに漂ふ如く萌すあくがれ 五味保義『此岸集』>歌人は昭和二十三年『アララギ』の編集事務に没頭していた。掲首は妻が病院を退院したときに詠んだ歌。
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2012年01月27日

建築:迷路のようなサルバドール・ダリのスペインの家

 北スペインはコスタ・ブラヴァ。元々は漁師の家を1930年に取得したダリが40年間かけて改造した迷路のような家。ダリに興味のある人には見逃せない逸品だ。
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2012年01月25日

短歌寸評

★つれづれにわれは坐りて二の腕に春のひかりをすり込みて居り 田口白汀 >これは未だ上品な部類だが、夏目漱石の場合は読書中の書物に抜いた鼻毛で田植えするのが癖だったらしい。

★思ひよらぬ警察にわれは連(つれ)られて行くむしむし暑し昼のちまたを 北村青吉 昭和万葉集(三)>全く身に覚えがなくとも、突如襲って来る不条理な拘禁。時にその嫌疑の情報元が近しい友だったりする、やり切れなさ。だが、損得がからめば人は平気で嘘をつき、友達を裏切る。そういうものだ。

★湯帰りの吾さへ何かあやしまれききたださるる世をさびしみぬ 丸山市郎 昭和万葉集(三)>警察国家、相互監視社会の鬱陶しさ。それが些細な悪、稀な悪取締の為に圧倒的大多数の善人を圧迫するなら、どれ程の意味があろうか。正義漢ぶって重箱の隅をあげつらうと、実に不愉快で住みにくい社会となる

★ 荘厳に鶴は頭上に満ちにつつ朝日あまねき空を乱さず 石本隆一 *鶴(名詞)秋に北方大陸から北海道釧路の湿原、鹿児島県の水田、山口県熊野町へとわずかに飛来する。たんちょう・まなづる・なべづるの三種。「つる」の歌語として「たづ」が用いられている>釧路湿原の雪中の鶴を一度見た経験あり。

★ペン執りて書きつづりゆくわが文(ふみ)にこころの凝(こ)りて物みな忘る 窪田空穂「執筆」昭和二十一年 >書くという行為は、或る人には苦痛そのものかも知れないが、文字になるにつれてもやもやとした気分が晴れて行き、おのが下らなさをも明らかにして、爽快になる楽しみがある。

★顔といふ顔のほとほと険しきに愛敬相(あいぎやうそう)をおもひ恋しむ 窪田空穂「顔」 昭和二十年 >戦局悪化がひしひしと伝わった時期、文字どおり皆の顔がさぞ険しくなったのだろう。

★豊多摩(とよたま)のひとやのうちに国を思ふ心潜(ひそ)めて君はこもれり 小枝 功 昭和万葉集(三)>弾圧を逃れて郊外の豊多摩に身を潜めた共産主義者の友の歌だが、政治に限らず真理を究めん者は往々圧迫を受ける。人生の大事を語れぬ社会はやはり歪んでいる。

★ひろがりゆく理論の果ての虚しさに安らぐ今夜疲れをるらし 吉田正俊『朱花片』(歌人二十代、大正十四年から昭和七年にかけての歌集)>観念が洋服を着ていた学生時代、世界の原理を究めんと読書に没頭しても、そこで語られる事柄の現実との接点が見つからず徒労感に襲われた。それは諦念へと傾いた。

★ただつとめ務めたりにし父が生(よ)を心たのみて生くべくぞ念(おも)ふ 五味保義『鳥山』>どんな仕事であれ、正業を全うするかたじけなさが軽佻浮薄の世には見過ごされる。ぬれ手に粟を掴んだとてそれが何になろうか。生真面目さが軽蔑される社会はやがて滅びるだろう。 
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2012年01月22日

短歌寸評

★犬儒主義(シニシズム)を憎みをりつつ新しき思想につきゆく人をさげすむ意識あり 金石淳彦 昭和万葉集(三)>欧米の新思想を輸入し、祖述することで学者・思想家ぶる人々を蔑む。それを喜び、ファッションのように思想を着替える人々もまた同じ。心血を注ぎ骨肉を削らねば本物ではあるまい。

★貧しきはおのづから國のみちにそひおし黙りつつ生きてゐるものを 筏井嘉一>日中戦争の銃後詠。

★わが家はがらくたばかりがらくたの一部ぞわれも子も妻もまた 
★妻子ゐるがらくたの家がわが家なりわが家をおきてゆくところなし 筏井嘉一>結婚して子供ができ深川に移り住んだ昭和九年頃の作。自らをがらくたと称するは自己防衛の為、小市民的生活への居直りだろう。

★呆けごころわれにかへるにあはれあはれとんでもなき道を歩みゐたりき 筏井嘉一『同』>昭和初年新興歌人聯盟結成の頃。短歌の世界が古典伝統派、プロレタリア短歌、自由律短歌など「歌壇はごったくさ」だった。

☆Gauguin(ゴーガン)はタヒチの島に遁(のが)れけり真実(まこと)たづねてつひに狐なりき 筏井嘉一『荒拷』>方便、象徴として楽園、浄土を語るはあれど、「青い鳥」は実在しない。タヒチを楽園と感じる為に否定した筈の西欧世界の力を借りていなかったか。また大衆には真実なぞ余計者だ。

★ひたぶるのおもひをこむるわれの歌のひとつだにも世にひびきをつたえよ 筏井嘉一『荒拷』>歌人万人の願いだ。

★友は死にて残れる我は石ころとおなじく野分のふく中におり 鹿児島寿蔵『帰り来て』>七年間疎開した熊谷から練馬区豊玉の新居に移った。野分とは戦後の厳しい状況そのものだったろう。友の死に報いることなく、敗戦後に残った我は石ころと同じだ。

★ひとなみになりがたきものに心よせて三十余年つひに経にけり 鹿児島寿蔵『麦を吹く風』>人はみな自分の人生が特別だ、輝かしいものであれと願う。されどそれが夢物語だと気づかざるを得ない。平々凡々の中に生を全うするさえ難しいと気づく。自縄自縛の人生に悔いを残して他界する.

★あめつちのあひだに生くるけはしさをことわりとしていのちをいきむ 鹿児島寿蔵『求青』>単純に生を長らえるだけでも難事業だ。当たり前と思い込んでいることのなんと脆弱で壊れ易いことか。

★ほろびたるものを惜しまず移りきてしづけきあした麦に降る雨 鹿児島寿蔵『春露』>大東亜戦争の戦局が逼迫する中、寿蔵は疎開もせず紙塑工芸に邁進していたが、終に田端のアトリエが戦火に焼かれた。掲首は再起の為の自己への励ましか。 

★老博士を鞭(むち)打つものらの執拗(しつえう)さ常臥(とこふ)すわれの血を沸(たぎ)らしぬ 中村襄二 昭和万葉集(三)「天皇機関説」>言論界が政治に巻き込まれるのは、言わば当然なのだが、保身の為に口を噤むのは、已むを得ないとはいえ、本懐に悖るだろう。受け狙いの軽薄才子も困るが。

★茉莉花のきよらに白き卓かこみ玻璃のうつはの飲料(のみもの)を飲む 鹿児島寿蔵『茉莉花』 >昭和十七年頃の作か?法隆寺、中宮寺を巡礼した。タイ語でジャスミンのことを「ドク・マリー」と言う。中国語の「マーリーホア」に由来するだろう。

★細(こま)ごまと親子の情を書きにける左翼転向者(てんかうしや)の手記を読みたり 池田松郎 昭和万葉集(三)「転向」>かつてキリシタン禁制下、「踏み絵」がありその信仰が試された。そして死罪との選択の前に「ころぶ」者がいた。同じく左翼弾圧の前に多くの著名人が転んだ。

★いきどほり一たび人のもつ時は忘れむことのたやすくあらぬ 窪田空穂「世相けはし」 昭和二十年 >健忘症なる語あり。健康に生きる上で忘れることは不可欠な知恵だ。健康とは厭なものでもある。
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2012年01月18日

短歌寸評

★たはやすく世におもねりて論(あげつら)ふ戦争談をひとり憎しむ 中川 逸 昭和万葉集(三)>曲学阿世。いつの時代にも居る。

★山里は土荒れた道九十九折二百五十キロ市街(まち)を隔てり 
★朝まだき霧立つ川を眺めやり冷え震(ふる)ふ手を珈琲で温(ぬく)めき >タイ国ターク県ウンパン村の宿にて。

★老いし親恋ひてはるかに寄せきたる兵のわが子の言(こと)の短さ 窪田空穂「子の便」昭和二十年 >兵役三年、死地で募るだけの思いは言葉にならぬ。饒舌でないだけに却って親はその余白に思いを寄せるだろう。 

★いまにも日米戦争起るがに荷物まとめし人もありといふ 埴科史郎 昭和万葉集(三)>年次を特定出来ぬが、昭和九年〜十一年に日米開戦の噂があったことは興味深い。

★わが家に着けば危さなき如くおろかしきこころもちては急ぐ 窪田空穂「路上」 昭和二十年 >この年、三月九日東京大空襲があった。

★ただならぬ世様(よざま)といふは我もいへやがてさびしく身をおもひみる 福田栄一 昭和万葉集(三)>他人の保身を咎めるはやさしい。だが、自ら火の粉をかぶって迄糾弾の先頭に立つ人は稀だ。自分の身がかわいいからだ。勿論、洞が峠を決め込むのは弱者の作戦として合理的だが。

★八重山の折りのひだひだにこもらへる雑木のもみぢつばらかに燃ゆ 若山牧水 *つばら=委曲・審ら(形容動詞ナリ活用)ことこまかなこと。詳細。十分。つばらか。つまびらか。>これも余り使わなくなった。

★現実の暗さ、冷たさ、堪へに堪へつつ、灰の余温に手を翳(かざ)す・冬。 赤木健介 昭和万葉集(三)>ちょっと言葉が「なま」だけど、その分分りやすい。堪えている現実の暗さ〜が個人的なものか、社会的なものか。因に小林多喜二虐殺が起きたのは昭和八年だ。

★相逢ひて語りつくすに心ゆき又の逢ふ日を契らで別る 窪田空穂「交遊」 昭和十九年 >語り尽くし心の交流に満足すれば、その充足感がしばし続くだろう。またそうした相手ならばこそ、心の赴くときに逢えるとぞ思え。

★大陸主義民族主義みな語調よかりき呆然(ぼうぜん)として昨夜(きぞ)は聞きたり 土屋文明 昭和万葉集(三)>語調のよいもの、陶然とさせるスローガン。だがその齎す現実相は何かを、人は問う事なく言葉に酔い痴れる。中身を知らずに駆り立てられる。具体相においてものごとを捉えるダルマの観察.

★何の芽か枯芝の中に一列に角ぐむを見てこころ安らぐ 吉村睦人 *つのぐむ=角ぐむ(自動詞四段活用)早春、草木が角のように芽を出し始める。芽ぐむ。>心安らぐのは何故か。
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2012年01月07日

短歌寸評

★老いてわれこの世に最(もと)も深くあるは親と子がもつ心とぞ知る 窪田空穂「母の日」 昭和十九年 >知らぬまま人生を終える人がいる。

★勤め持ち日々働けどわがこころ省みるなく逝くを寂しむ 清水雅彦 >こういう感受性は、多くの人が言葉で知っていようが、実践することなく日常の多忙の中に忘れ去っている。

★われを指さすおほきなる手を常に感ず闇のなかよりひかりの中より 土岐善麿 昭和萬葉集(巻三)(昭和九年〜十一年の作品)>時代の奔流が押し寄せる。まだ具体的な姿形は分らぬが、個人を越えた力が人を左右する。

★空気つとに濃密になれる日のくれを隈回にしんと立てる白梅  高嶋健一 >空気の濃密とは客観的なものか、それとも心理の投影であるか。空気の希薄は酸素不足、呼吸困難として感覚されようが、はて濃密は?

★民族のエミグラチオはいにしへも国のさかひをつひに越えにき 斎藤茂吉 昭和万葉集(二)>民族移動は歴史上に見られる現象。掲首で注意すべきは国境線が明確に意識されたのは國民国家成立によるから、いにしへの國のさかひは茫漠としたものだったことだ。豊かな大地を目指し先住民と争った。

★語らふも心通はじわが経たる六十(むそぢ)の世をば負ひ持ち死なむ 窪田空穂「誕辰」 昭和十九年 >心を通わせることは至難の業だ。どんなに多言を費やそうとも肝胆相照らす仲にはなり難い。人間は一人で生れ一人で死ぬ。それだけに心通うは至福の瞬間だ。尤も無い物ねだりに陥り易いのが人間だ。

★船の上にあくる小笊(ざる)の造る山あさりしじみ貝まじる蛤 窪田空穂「江戸川河口」 昭和十九年 >深川丼というのがある。浅蜊の煮込みをご飯にかけた丼飯だ。かつては浅蜊、蜆が河口で取れた証拠。「あっさり、死んじめえ〜」と売り声をかけながら、江戸時代なら行商する子供の姿があったか。

昭和万葉集(二)から吉井勇の二首。★このままに石となるべきここちしぬ膝を抱きてものを思へば ★ねむられぬ夜(よる)のこころの冴えざえとあかときちかく猿蓑(さるみの)を読む>第一首の趣は普及したのでないか。第二首のような状況は誰にもある。但し、猿蓑を読むのは珍しい。

★つづまりは独りある将来をおもひつつあるところより茫々とせり 飯沼喜八郎 *つづまりは=約まりは(連語)約(つづ)まり所。つまり。行きつくるところ。とどのつまり。>この語もあまり使わない。

★夜をとほし心(うち)やすらかに眠りつぐなべてのことは吾にさきはへ 吉田正俊 昭和万葉集(二)>早寝早起きが定着して寝付きはすこぶるいい。だが、掲首と違って稀に嫌な夢を見ることがある。空中浮遊のような外国リタイア生活の故か、時に現実という重力に墜落させられるのだ。

★朝よさの空のすずしさいたづらに何の恙をきにかくるべき 大井 広 >今年はこういきたい。

★ほがらかに生きて疑はぬ女の顔つぎつぎに見き硝子の外より 吉田正俊 昭和万葉集(二)>深刻な様相を示した時代に染まらぬ女たち。息子の戦死さえ肯定的に受止めたのだろう。げに信じ切っていたのかも。
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2012年01月02日

短歌寸評

★酒のめばいよよ寝られぬ雪の夜の燈(ほ)かげにかよふ風の寂(ひそ)けさ 穂積 忠 昭和万葉集(二)>喜怒哀楽と酒。正月のお神酒に心地好く、初夢の縁起もよろしくと願いたい、ところだが。。。

天皇陛下新春御製
★黒き水うねり広がり進み行く仙台平野をいたみつつ見る 東日本大震災の津波の映像を見て
★大いなるまがのいたみに耐へて生くる人の言葉に心打たるる 東日本大震災の被災者を見舞ひて
★津波寄すと雄々しくも沖に出でし船もどりきてもやふ姿うれしき 東日本大震災後相馬市を訪れて
★五十余年(いそよとせ)吾(あ)を支へ来し我が妹(いも)も七十七(ななとせなな)の歳迎へたり 共に喜寿を迎へて
★被災地に寒き日のまた巡り来ぬ心にかかる仮住まひの人 仮設住宅の人々を思ひて >天皇皇后両陛下のご長寿をお祈りすると共に日本国民一人一人に幸せが訪れますように。

★海の泥あげて培ふ畑一枚冬菜にむすぶ露ひえびえし 松村英一 >河口付近に上流から流されて来た泥土が様々な養分を含んで堆積していたのかも知れない。その泥を畑に入れて土壌を改良したか。その甲斐あって冬菜が稔った。結露はひえびえとしていようが、歌人にはよくぞ育ったの思いがありそうだ。

☆除夜の鐘ひたひたひたとたったった 三井つう 仏教俳句歳時記 >タイ国に来て正月気分が薄いのは、第一にこの除夜の鐘がないことかも知れない。過去を振り返ると同時に殺し、鐘の音で煩悩を消す。そして新しく生まれ変わる。上座仏教には刻の鐘もない。慣れ親しんだ舞台装置がないのは寂しい。

☆あかときは空のいづくか片結び縹(はなだ)の帯が解くるぞ ふわり 同  *縹=うすい藍色 >エロティックな歌。空の移り行く姿に縹色の帯を見た。一拍おいて「ふわり」と付けるのがゾクゾクする。絵画的であると同時に音楽的でもある。男ならそこに女の白い太ももを見た気分だ。

★風神青く雷神赤し除夜詣 北野民雄 大法輪閣『仏教歳時記』 *除夜、年の夜、除夜詣、除夜篝、二年籠、二年参。除夜詣の人びとを受け入れる寺社では、一晩中、篝火を焚き続ける。

★老いらくの口もと寒し御仏名 向井去来 *仏名会(ぶつみょうえ)御仏名(みほとけな) 旧暦の十二月十九日から三日間、宮中と諸寺で行われた法要。別名を仏名悔過(けか)とも。過去・現在・未来の諸仏三千の名号を称えて、一年間に犯した罪と身の穢れの懺悔消滅を願う。大法輪閣前掲

★熱燗や街ぐんぐんと暮れてゐし 高田風人子 (角川『季寄せ』から)>かつては大晦日まで働く仕事に就いていた。他の会社は年末年始休暇に入って、買い物客以外はサラリーマンの姿がぐっと少なくなった街。それでもご同業か仕事のはねた後に暖を求めて暖簾をくぐる客がいた。熱燗、うまかったなあ。

★やがてくる新しき世には堕ちてゆく我等を嗤(わら)ふ書を究(きは)めをり 野田達夫 昭和万葉集(二)>この書は何だろうか。直ぐに思い浮かぶのは『資本論』の類だが。今や、その手の書物は失われ、嗤う者さえなく、ただ堕ち行くのみか。新しき思想はあと百年、二百年先にしか生まれぬのかも。

★人の死をこともなく聴きひつそりと馬鈴薯の種子土に埋めゆく 前 登志夫 >「こともなく」が気になる。死が日常化し格段の感情をかき立てなくなったか。諦観か。言葉を絶する重すぎる死なのか。「馬鈴薯の種子」は次世代の命だから、死の埋め合わせ行為なのかも知れない。

★九十九髪なびくと見えて夕闇の遊行柳は老い母に似る 岡野弘彦 *九十九(つくも)(名詞)数の名。百の字に一の字の不足している白の字にちなみ、老人の白い髪。しらが。>十五夜を三五の月と云ったりする昔の人の遊び心が嬉しい。この歌も風になびく柳を老母の髪に見立てた着想が面白い。
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渚 ゆうこ 京都の恋 ベンチャーズVer.



 この曲が流行したのは私の高校修学旅行で京都に行った時だった。
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2011年12月31日

石川さゆり 緑のふるさと


 我は海の子 大地の子
 嵐に耐えて 凛と咲く
 緑のふるさと 〜
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2011年12月29日

短歌寸評

★大いなる振幅もちて移る世に伴ひ得むはただ若きどち 窪田空穂 昭和十九年 >いつの世も変革の主体は若者だが、暴走は困り者ながら、若者がそうした意欲を喪失したとき、社会は活力を失い腐敗してゆく。さて、日本国の若者はどうかな。

☆もみぢ葉を底に沈める蹲の水ととのへて初春迎ふ 天方冨美子 昭和万葉集(二)*蹲ひ(名詞)縁側の近くの庭にすえてある低い手洗鉢。>今や蹲を置く家は稀だろう。時に気の利いた料亭などで水道の他に芳香のある花などを浮かべた水鉢のあることがある。道元は洗面にも禅の発露を求めた。

★み仏にささげむ花を水落つるかけひの下にあまたねかしぬ 石川確治 昭和万葉集(二)>我が林檎部屋には日本から持ち込んだ仏壇がある。泰式釈迦仏を祭り父母の位牌を置く。日泰混淆スタイルだが、毎朝閼伽を替え線香をあげることから一日が始まる。禅→上座仏教へとシフトしたが、仏教を信じる。

★いつまでもうまくならぬと我が歌を読みゐし妻のつくづくと云ふ 氏家 信 >ははは(笑)、困りましたねえ。

★あづさゆみ春は寒けど日あたりのよろしき処つくづくし萌ゆ 斎藤茂吉 *あづさゆみ=「はる」に係る枕詞 **つくづくし=土筆 >こうした世界は今や遠いとおいものとなった。

★欲しきもの赤き経几(きやうづくゑ)黒き書棚碧き古銅器紫女が古板本 日夏耿之介 昭和万葉集(二)>男には書斎が必要だ、と固く信じて、どんな家でもその確保に努めて来た。この歌、気持ちがよく分る。尤も最後の紫式部は我が好みではない。

★親としてすべきあらまし終へぬればわが傍らに子の一人(ひとり)ゐず 窪田空穂>少子化の時代、子供の巣立ち後の人生が長くなった。停年後の人生も然り。独り立たねばならぬ時間の長期化に皆はどうしているか。子々孫々が集う機会が少なく、圧倒的に自らに向き合わねばならぬ。茫然自失なきを祈る。

★あやまちて野豚らのむれに入りてよりいつぴきの豚にまだ追はれゐる 石川信夫 昭和万葉集(二)>野豚は象徴的表現なんでしょうねえ。さて何の?

★供へたる写真の前の煙草の箱セロファンかすかに埃づきたり 宮 英子 >喫煙撲滅運動の前に愛煙家は気息奄々だが、「今日も元気だ、煙草がうまい」と言っていたのはいつの時代だったか。亡父は酒は呑まず煙草だけが楽しみだった。新生からハイライトへ好みは移ったが、愛した銘柄は不変だった。

★うかれ出づる心は身にもかなはねばいかなりとてもいかにかはせむ 西行 >月や花のような美的対象に触れて心が昂揚するときに「うかれ出づる心」と云った。現代では特に実社会に入り、責任やら義務やらしがらみに囚われると心が自然に浮かれることが殆どなくなる。美に対して擦れっ枯らしになる。

★秋風に月見草さく一輪の黄のかなしみのくらくなりゆく 金子薫園 *月見草(名詞)川原や野原に生えて夏の宵ころ黄色い花を開くのは待宵草だが一般に月見草と呼ばれている。本来の月見草は白色の花を開く。>都会ではこうした情趣からほど遠くなった。

☆せめて苦悩の美しくあれ爪に染(し)む煙草の脂(やに)を幾度ぬぐふ 斎藤 史 昭和万葉集(二)>史女史はヘビースモーカーであったか。煙草をくゆらしながら考え込む苦悩とは何だろう。時代を喝破する気力に溢れた女史ならば、時代のことではないだろう。意外と(失礼)女らしい悩みだったか。
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