★レーニンもカールマルクスもともどもに将棋好みしといふは面白し
★是非のことは腹足るものの論ずる事饑(ひもじ)きはただ啖(くら)はんを願ふ 大熊長次郎「真木」昭和七年 >労働運動に挺身した歌人は自殺する前年に「藝術は泰平の所産」と断じるに至った。
★亭々と聳ゆる楢の樹の膚を這いのぼりゆく蔦の命よ 田村重臣 *ていてい=亭亭(形容動詞タリ活用)高だかとまっすぐにそびえたつさま。>これも使われない言葉になったか。
述懐 窪田空穂 昭和二十一年 八月一日、中国より復員の最終船浦賀に入れるに、必ずやその中にああんと思へる次男茂二郎、終に還らず。わが心甚だ悲し★七十の心ぢからの俄にもくづほれはてて泥と横たふ★死にける時処(ときところ)すら知り得ざるわが子とおもふにあはれに切なし>復員せぬ我が子。
★厨ごと終へし家妻いつの日の来なばとなげく物の乏しさ 窪田空穂「廚」昭和二十一年 >言わずと知れた敗戦後の食料不足の世相。米国の廃棄物処理に近い脱脂粉乳を有難がった。
妻との臨終の歌 吉野秀雄>
★今生のつひのわかれを告げあひぬうつろに迫る時のしづもり
★遮蔽燈の暗き燈(ほ)かげにたまきはる命尽きむとする妻と在り
★をさな児の兄は弟をはげまして臨終(いまは)の母の脛さすりつつ >贅言無用。
★をさな子のほころびを汝(な)は縫へり幾日か後に死ぬとふものを 吉野秀雄『寒蝉集』>母親とはこういうものだろう。かくするが故に母は偉大なのだ。
★目の昏(くら)き母は立ちゆくわが側に這ひ来りかたく手を握りたり 同『一つ石』>我が子頼りの暮らし、立ちゆきが永遠の別れになるかもしれぬ不安と確認せざるを得ない気持ち。そんな母親の気持ちがよく分る情景。
★限りなくゆかむ吾等にあらなくに漂ふ如く萌すあくがれ 五味保義『此岸集』>歌人は昭和二十三年『アララギ』の編集事務に没頭していた。掲首は妻が病院を退院したときに詠んだ歌。
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